八島高明の紫微斗数教室3

紫微斗数の主要な星の名前を見る限り、中国古来の方位術である「奇門遁甲」の知識を借用して制作されたと見ることができます。奇門遁甲は中国古来の占術であり、兵法として使われてきた歴史があります。紀元前後に成立をみて戦争にも使われてきました。実際は占いというよりも「方位戦術」ですが、かの有名な周の太公望も奇門遁甲を使ったと言われますが、その確証はありません。

 

奇門遁甲には紫微斗数で使われている星と同じ名前の星がたくさん出てきます。たとえば貪狼星、巨門星、禄存星、文曲星、廉貞星、武曲星、破軍星、左輔星、右弼星などは奇門遁甲では9天星と呼ばれ、ほぼ紫微斗数と同じ意味を持っています。また子平(四柱推命)から取り入れたものもあり、たとえば10年間で変化する運の内容は四柱推命の大運に相当するものででしょう。

 

そうした内容を検証していくと、紫微斗数は西洋占星術の技法をベースに取り入れ、そこに中国古来の奇門遁甲や四柱推命、その他の干支術などを持ち込んで、独自の占星術として成立したものと言えるようです。その成立はおそらく明代ですから、実際の創始者は宋代に活躍した道士の陳希夷ではなく、明代の無名な占術家が歴史的にも著名な人物に仮託して作成した、とみるべきなのかもしれません。

 

紫微斗数の解釈の方法について

紫微斗数に出て来る全部で100を超える星の意味を解釈するとなると、とても難しくなります。また占い特有のフリーサイズ効果(どのようにでも解釈できる意)にもなってしまいますので、あまり多くの星を使うのはお奨めできません。

 

また解釈する際にもその該当する本宮だけではなく、対面にある宮を参考にしたり、あるいは三合宮(左右120度の宮)を入れて4つも参考にする等にも、大きな問題があると思います。紫微斗数を実際にやってみると、「なるほど当たっている」と思う事も確かにありますが、占術に詳しくない一般の方であれば、それだけでも驚いてしまうかもしれません。

 

ただ、実際には紫微斗数では複数の宮を同時に見たり、あるいは多数の星の解釈を幅広く参考にすることで、実際的に当たっているように「多様な解釈が可能になる」というのも事実なのです。たとえば紫微斗数をやる際は「当たっている」と感じる部分だけに注目するのではなく、他の「当たっていない」と感じる部分も、バランスをとって公平公正にその詳細を吟味・検証する必要があるのではないでしょうか。そうした統計的な観点からみていけば、その事実がよくわかるかもしれません。

 

紫微斗数の解釈の多様性について

紫微斗数で一番の問題は「命盤の解釈に多様性を持たせ過ぎている」という点にあります。どんな占星術や他の占術にも言えることですが、的中率を少しでも上げようとするあまりに、その解釈の方法を幅広く持たせてしまうということがよくあります。たとえば、この解釈が当たらないと次の解釈を出してくる、それも当たらないとさらに次の解釈を出してくるというように、実際に多くの占術家がこうした安易な「フリーサイズ鑑定法」に走ってしまうことがあるものです。

 

ただ、このように解釈の幅を広げていくと、占いをしてもらっている人は「当たっている」という判断に陥ることがよくあるのですが、これがいわゆる「占いのフリーサイズ効果」というものです。しかしこうした鑑定法に頼って満足していると、間違った判断をあたかも正しい鑑定のように錯覚するために、結局は根拠の薄い占術に振り回されることにもなるでしょう。では、それのどこが問題になるのでしょうか。

 

たとえば「来年の運気は危ないですよ」と言われて、それを信じて慎重に行動することで、その人は大きなチャンスを逃してしまうかもしれません。またその反対に「来年は良い年ですよ」と言われて、その通りに行動したら実は危険な年であり、何か大きな失敗をした、ということにもなりかねません。すべての占術には多少なりとも、こうしたフリーサイズ効果というものがあるので、どんな占術でも鑑定を受ける場合はこうした「曖昧な鑑定法」に十分に気を付ける必要があります。

 

また、これは紫微斗数に限りませんが、その人の運命から親や兄弟や配偶者、子供のことなどは完全に予測できるものではなく、身近にいる親族といえども個人の運命とは別に、その人なりの運命を持っていることを忘れてはいけません。自分の運命から正しく判断できるのは、あくまでも自分の運命の傾向性や未来の可能性であり、その人の深層心理の中にある性格や価値観、気質や体質や才能などであることも覚えておくと良いでしょう。

 

 

紫微斗数を検証する

私が実際に紫微斗数をやってみた感想を述べると、なるほど「当たっている」と感じる部分もありますし、また反対に「いや当たっていない」と感じる部分もあって、全体としては真偽が入り混じっているという複雑な印象を受けました。その検証には私が生誕時間や性格やこれまでの生き方をよく知っている人を多数やってみましたが、やはり同様な印象を持ちました。すべてが完全に当たっている人はいないと思いましたが、しかし全部外れているというわけでもありませんでした。やはり結果としては「真偽が入り混じっているな」と感じました。

 

また、紫微斗数には四柱推命をやってみたときのような大きな驚きがありませんでした。それは紫微斗数が現実のリアリティーを離れて、当てる為の占い的な技巧ばかりに走り過ぎてしまった結果なのかもしれません。

つまり、紫微斗数は100を超える多数の星を使い、さらに宮の解釈じたいも本宮、対宮、三合宮(左右)と4つの宮を使うことにより、占いの解釈の幅と多様性を増やしていくことで統計的なベースを離れてしまい、その結果、鑑定家の勘と経験に頼る要素をたくさん増やしてしまったのでしょう。少なくとも私はそうした印象を受けました。しかし他の占術にもこれは言えることであり、紫微斗数だけに言えるものではありません。占術を愛好する人は、占術にはこうした側面があることを常に忘れずにいてほしいものです。かくいう私もたくさんある占術の真偽を見分けるまでは数十年間もかかったものですが、四柱推命も含めて占術とはそうした負の部分もあることを忘れてはいけないと思うのです。

(紫微斗数教室了)

 

 

2022年06月27日