八島高明の風水教室3

陽宅風水の始まり

軍事的な発想法を取り入れ、環境学として広まった風水思想は清代(1616-1912)に入ると、自然学的な発想法を「個人の住宅の内部まで応用できないか」という発想法に変化してきます。これが現在の「風水占い」の起源と言えるでしょう。

 

これを「陽宅風水」と言います。この陽宅風水の歴史を見ると、それは意外に浅いものと言わざるを得ません。この風水は本来の風水である「陰宅風水」のような長い歴史の検証を得ていないとも言えるのです。

 

ここで大事なことは、まず風水本来の自然学的な思想法に立ち返って、「陰宅風水の思想をそのまま家の内部にまで応用できるのか」という基本的な検証から始めるべきではないでしょうか。

 

陰宅と陽宅ー2つの風水とは

日本で流行している風水占いの多くは家の内部にある「インテリア」や「間取り」など、住宅の内部にばかり関心が向かっています。ですが、本来の風水はこのようなものではありません。風水を大きく分類すると2つに分けることができます。よく言われるように「陰宅」と「陽宅」の風水です。

 

陰宅の風水とは先にも述べたように、太祖山を発する山脈の龍(尾根)の流れを辿り、気のエネルギーが集中しているポイント「穴」を探し、それを守る「砂」や「水」の配置を分析して、そのポイント「穴」の良否を判定して利用する技術です。

 

風水の原点は本来はこの陰宅の風水なのです。ただ、この技術を利用するには山や谷を駆け巡って地形の良し悪しを調べたり、龍の良し悪しを調べたりする必要があります。

また、そもそもこの思想は本来的には都市設計に利用するものであり、本質的には個人の欲望に応えるようなものではありません。こうした吉相の土地を探すには大変な労力と時間が必要なのです。それは個人の欲望に安直に応えるような、また安易にできるような「開運法」でもないのです。またその効果も現代人が要求するような即効性に欠けるため、この陰宅風水はあまり注目されなかったのでしょう。

 

そこで簡単にできる「家の間取り」や「インテリア」を利用して、要するに陰宅風水の真似をして、個人の欲望に簡単に応えようという発想法ー「陽宅風水」が出て来るのです。

 

現在の日本で主流になっている風水占いはこの陽宅風水に加えて、古来からある日本の家相をごちゃ混ぜにしたものと言えるでしょう。この陽宅風水の典拠になっている文献には、清代の『陽宅集成』『八宅明鏡』『金光斗臨経』『陽宅三要』『地理辧惑』『玉鏡経』などがあります。

 

八宅法でみる風水の吉凶とは

古典的な八宅法では個人の生まれた年を「本命卦」と言い、その本命卦を中心として方位の良し悪しを選択します。方位には5つの宅気があり、それぞれの方位に吉凶があるとされます。以下が5つの宅気です。

 

《5つの宅気とは》

「旺気」は家の中で最も気の旺盛な場所。財運、健康などに効果があるとされます。

「生気」は子供や配偶者にも良い吉方位であり、穏やかな効果があるとされます。

「洩気」は吉凶の中間作用があるとされ、現状維持には良いが、発展性が弱いとされます。

「死気」は気の弱くなる場所で凶方位とされ、健康や金銭面でも苦労が多いとされます。

「殺気」は大凶の方位であり、家の太極(中心)を損なう作用があるとされます。

 

吉方位には玄関や寝室、居間が適切とし、凶方位には浴室、トイレなどが良いとされます。この前提を踏まえたうえで、さらに8種類の「宅向」というものを出して「5つの宅気」を配置していきます。

 

《8つの宅向》とは

1)離宅・・玄関が北に向く家の場合は北と西と東南が洩気。東北と南が生気。東と西南が死気。西北が殺気となる。

2)坤宅・・玄関が東北に向く家の場合は東北と西南が旺気。東が生気。東南が死気。南と北が洩気。西と西北が殺気となる。

3)兌宅・・玄関が東に向く家の場合は東と南と西北が生気。東南が旺気。西南と北が死気。西が殺気。東北が洩気となる。

4)乾宅・・玄関が東南に向く家の場合は東南と西と北が生気。南が洩気。西南と東が死気。西北が旺気。東北が殺気となる。

5)坎宅・・玄関が南に向く家の場合は南と西北と東が殺気。西南と北が生気。西と東北が洩気。東南が死気となる。

6)艮宅・・玄関が西南に向く家の場合は西南と東北が旺気。西が死気。西北が生気。北と南が殺気。東と東南が洩気となる。

7)震宅・・玄関が西に向く家の場合は西と東南が死気。西北が旺気。北と西南が洩気。東北と南が殺気。東が生気となる。

8)巽宅・・玄関が西北に向く家の場合は西北と東と南が死気。北が洩気。東北と西が殺気。東南が旺気。西南が生気となる。

 

風水占いは奇門遁甲を応用か

古典的な風水では以上の基礎を踏まえたうえで、方位の良し悪しを選定していきます。基本的には良い方位に玄関、寝室、居間などが良いとされ、悪い方位にはトイレや風呂があることが望ましいと言います。

 

これらの発想法をみると、すぐに易学の知識を応用していることがわかります。易学は元々占いに使用されていたので、それが風水占いに採用されても何ら不思議ではありません。

 

さらに方位的な知識は「奇門遁甲」の九星を利用した可能性が高いでしょう。奇門遁甲はそもそも方位術として発展したきたもの。個人のいる場所を中心に据えて、周囲にある空間を8つの方位に分けて、方角の持つ吉凶を占うものです。陽宅風水でも同様に家の中心から見て周囲を8つの方位(24方位もある)に分割して、それぞれに意味を持たせていることがわかります。

 

そこに陰宅の風水として存在した思想を組み込み、複合的な吉凶を判断する占い術として意味付けしていることが見えて来ます。たとえば風水では日本の家相のように家の内部だけを見るのではなく、風水では方位の延長上に存在する近隣のビルや道路の配置まで考察の対象とするのです。

 

さらに20年毎に変化する「地運」というものもあり、それにより判定はより複雑なものとなり、方位の吉凶は簡単に出せないようになっているのです。

こうした陽宅風水の内容を見ると、陰宅風水をベースにして「奇門遁甲」や「易学」の方位の知識を組み込み、安直に個人の欲望に応えるための方位占術として成立してきたことが見えてくるでしょう。しかし実は、そこにはたくさんの「疑問点」が出て来るのも事実なのです。次回はそれをさらに検証してみましょう。

 

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2021年10月19日