八島高明の家相教室2

家相の起源とは

占術としての家相の歴史をみると、家相も風水と同じように歴史的には考証の浅い面があるのは否めません。つまり、いろんな角度からの検証が為されていないとも言えるのです。いま現在使用されている家相の根拠の多くが、江戸時代に作られたものです。

 

摂州の神谷古暦の『家相観地録』、大江桐陽の『家相口訣』、疋田慶明の『家相秘録』、松浦鶴雄の『家相要書』、大阪の松浦東鶏の『家相大全』、弟子の松浦琴鶴の『家相一覧』『家相秘伝集』などが家相の古典と言えるものでしょう。

 

このいずれもが江戸時代の作であり、現代における住宅環境学の走りとも言えるものです。江戸時代と言えば戦乱の時代が終わり、庶民文化が大きく花開いて文明的な雰囲気が広く行きわたる時代です。西洋では自然科学が本格的に始まり、それが東洋にも伝播してくる時代でした。

 

家相の始まりについて

家相もこうした時代背景があって成立したものでしょう。それまで科学意識の薄かった当時の日本人も、ようやく自分達の住む住環境的な意識に目覚め、その良し悪しを考え始めても何ら不思議ではありません。当時に開花し始めた科学意識の影響、あるいは古来から存在する東洋の神秘的な雰囲気もあいまって、家相的な思考法が始まったと見ることができます。

 

たとえば、家相では「鬼門」の方位にトイレなどの不浄なものは良くないと見なします。これは当時の住環境を考えれば、それほどおかしなことでもありません。昔のトイレは汲み取りの上、現代とは違ってかなり不衛生な状況でしたので、それを北風の吹く東北の方位に持ってくると、気密性のない当時の家では不衛生ということにもなります。

 

昔の家は現代の家とは異なり、気密性の低い隙間の多い構造であり、冬は扉や窓も閉め切っているので、匂いや雑菌が屋内に入ったりするのは確かに問題があると言えます。また家相では「三角形の土地」は良くないと言いますが、これも一理あります。三角形の土地は使いにくい上に、無駄なスペースも出てきます。またそこには心理学的な理由もあると思えます。たとえば先端の尖ったものに対して人間は心理的な不安感を抱くものです。それはナイフや刀を恐れる無意識の「防衛本能」が作用するからでしょう。ですから家や土地が三角形で尖った印象を人が持てば、それに対して心理的な抵抗感を感じてもおかしくはないものです。

 

家相の中には迷信も多いか

こうした住環境に関する当時の様々な感覚や経験が知識となり、家相学という一つの信仰的なものを形成していったと考えることができます。しかし古来の家相学を検証してみると、その中には迷信的な要素が多いのは確かな事実でしょう。現代人であれば科学的な見地から当時の歴史や時代背景を考慮し、昔の人たちが本当に伝えたかったものが何なのかを理解する必要があります。

 

家相が出来始めた当時の時代においては、現代のような住環境学が存在しなかったこと。また当時の人たちが現代人のような科学的で合理的な思考ができなかったこと。これらを前提とすることで、当時の人々が伝えたかった真意も見えてくるのです。それを考えずに家相を何か神秘的なものとして捉えていると、家相そのものに振り回され、家相に泣かされるということにもなりかねません。現代においてはその真意を十分に検証していく必要性があるのです。

 

家相の鬼門とは何か

それは家相で最も恐れられている「鬼門」という発想法にも言えることでしょう。家相でいう「鬼門」とはいったい何でしょうか。家相では東北を「表鬼門」と言い、その反対の南西を「裏鬼門」と言います。この「鬼門」に当たる方位は不吉な方位として忌み嫌われたり、あるいは神聖な方位として神秘化されています。

 

家相では鬼門の方位にたとえばトイレや風呂場などの不浄な場所があると、そこに住む住人に何らかの不吉な災いが及ぶと考えられています。前述したように、そこには何らかの合理的な思考法が働いてはいますが、それだけで鬼門の全体を把握できるものでもありません。しかし家相においてはこの鬼門という考え方がその中心を成しており、家相では不思議なほどこの鬼門のことを事細かく言うのです。

 

ただ、私が不思議に思うのはこれだけ鬼門のことを細かく言うにも関わらず、なぜ鬼門の方位が大事なのかは明確に説明していないのです。ちなみに同じ環境学的な思想をもつ中国の風水において、この鬼門のことはほとんど取り上げていません。言い換えれば、この鬼門という発想法じたいが日本独自に発展、展開したものと言えるでしょう。

 

もし鬼門に何らかの重要な意味があれば、あらゆる東洋系の占術や運命学の本場でもある中国に、数多くの類似した文献が残されているはずです。なぜなら、日本の占いのルーツの多くが中国にあり、奇門遁甲や九星術などを始めとする占術の多くが、中国に起源を持つものだからです。ただ本場の中国にそうした鬼門を重要視するような文献などはなく、この鬼門を詳細に取り上げないというのは、やはり理解に苦しむところでしょう。実はこの辺りに鬼門の謎を解明する鍵があるのですが、次回はこの鬼門の詳細な検証をしてみたいと思います。

 

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2022年06月07日